冬ごもりの者は、秋が深くなると食べる量が倍になる。私もその秋は、茶碗に何杯よそっても足りなかった。夜中に台所へ行っては、母が鍋に残しておいた煮物を冷たいまま平らげた。
冬ごもりは、この町にも私のほかに二人いると聞いた。霜が降りるころに体が重くなり、納戸に敷いた布団に入ると、沈丁花が匂うまで目を覚まさない。眠る、と私たちは言うが、母に言わせれば、息が浅くなって体が石のように冷えるのだそうだ。三十六になるまで、私は冬というものをほとんど知らずに来た。
妹の式が二月に決まったのは、相手の転勤が春からだったからだ。その話は、相手が初めてうちで夕飯を食べた晩に出た。家族四人と相手とで鍋を囲み、私は相手の三倍は食べていた。
「お兄さんは、寝ててください。動画、ちゃんと撮りますから」
人のよさそうな顔で相手が言い、妹が隣でうなずいた。
「起きてるよ」と私は言った。「出る」
父が、鍋に伸ばしかけた箸を置いた。冬ごもりが冬じゅう起きていると、その冬のうちに体が三つ年をとる。中学のとき受験のために起きていた同級生は、卒業式で会うと制服の袖が短くなっていた。
「やめて」と妹が言った。「三つも年をとって来てもらうような式じゃないから」
母は立ち上がり、空いた皿を重ねて流しに運んでいった。相手だけが、すごいな、起きられるんですね、と嬉しそうにしていた。
霜の降りた朝、私は母が敷いておいた納戸の布団に入らなかった。
横になって目を閉じれば、そのまま春まで行ってしまう。台所の椅子の上で眠り、朝になると母が肩を揺すって起こした。妹はその冬、一度も家に来なかった。いや、正月に一度来たが、私の顔を見ないで帰った。
霜柱を踏むと靴の下で細い氷が崩れ、吐く息が白く、こんな温かいものが自分の中にあったのかと私は呆れた。駅のホームから見る線路の向こうの畑は一面に白く、何かの間違いのように光っていた。こめかみは鏡を見るたびに白くなっていった。腰が痛むようになり、椅子から立つのに時間がかかった。
式場は、都心へ出る途中の駅の前にあった。披露宴の席は新郎の親族のテーブルの隣で、新郎の伯母だという五十くらいの女の人が、お兄さんは冬ごもりなんですってね、と体ごと振り返って、私の髪を見た。
「いいわねえ。寝てれば、冬のあいだお金もかからないんでしょう」
「この冬で、三つ、年をとりました」と私は言った。
「あら。でも、起きてたんだから、いいじゃない」と言って、伯母は前に向き直った。
照明が落ちて、妹が両親の前に立った。お父さん、お母さん、と妹が言ったところで、私は長いあくびをした。